ラスト・ディール 〜美術商と名前を失くした肖像/ ONE LAST DEAL

  • 2020.01.28 Tuesday
  • 20:30

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ラスト・ディール 〜美術商と名前を失くした肖像/ ONE LAST DEAL

 



♯189


フィンランドの首都ヘルシンキが舞台だ。
映画観賞の楽しみのひとつに、映し出される街の日常や暮らす人々の息づかいを実感できることも見逃せない。
本作がそうだ。
歴史を誇る北欧の都市ならではの落ち着きのある街並が随所に映し出され、
まるでそこを訪れているかのように思える。
まさにその一角に小さな美術店が佇む。営むのは老いた美術商オラヴィである。
昔ながらの商いで資金繰りは悪化し、店を畳むことも考えざるをえない。
そんな矢先、誘われて出掛けたオークションハウスで一枚の肖像画に目を奪われてしまう。
価値ある作品に違いないと確信するも、署名がない、出所不明、だれの肖像画なのかもわからない。
数日後にオークションにかけられると聞く。
「これが最後でいい、幻の名画の取引に関わりたい」と静かに、熱く願うオラヴィである。

老いた美術商の願いと並行した流れで、疎遠となってしまったひとり娘とその息子との関わりが
物語の奥深さを描き出す。
問題を抱える息子の職業体験に協力して欲しいと娘からの突然の電話。
家族のことなど顧みず、仕事に打ち込んできたオラヴィは戸惑うばかりだが、
彼女の息子、オラヴィにとっての孫は、構わず店に顔を出す。

いよいよオークションの当日。どうしても落札したいオラヴィ。
落札価格は競り上がる。作品の確証はつかめていない。資金もない。リスクも高まるばかり。
ついに1 万ユーロの声。震える声でオラヴィが競り落とす。が、支払期日まで金の準備はできそうもない。

悪徳画商に商売を邪魔されて、さらに追い込まれるオラヴィ。彼の急場を救うのは、だれか?
娘に金策を頼むも「何度わたしを泣かせたらいいの?」と娘との関係は、やっぱり悪化。

ヘルシンキの街並を雨が濡らす。トラムが走り抜ける。物語を特長づけるシーンだ。
とても味わい深い表現で、観ていて製作者の度量に感心する。
そして結末、人生にとって本当に価値あるものは何かを問いかけてくる。
映画って、いいなぁ。

2020.1.27 試写/ C

2020 年2 月28 日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、ほか公開
名古屋/名演小劇場

スキャンダル/ SCANDAL

  • 2020.01.12 Sunday
  • 16:45

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スキャンダル/ SCANDAL

 



♯188


「キミをこの番組から降ろすことは簡単だ。
もちろん、メインに抜擢することもね。わたしの言うとおりにすればのことだが」
ケーブルテレビFOX ニュース社内では、この類いの言葉が平然と飛び交う。
口にするのは、会長兼CEO のロジャー・エイルズだ。

本作は、事実に基づくもので、ロシャーのセクハラ行為を白日の下にさらし、権力者の愚かさ、
メディア内部で起きている実状を見せてしまうリアリティーあふれる作品である。

2015 年当時、大統領候補のトランプは、女性蔑視発言を繰り返し、対してFOX ニュースの
メインキャスターのメーガン・ケリーは、批判的立場を崩さなかった。
トランプが、支持されるとはだれも予想していない。
ところが、流れが変わるやFOX ニュースはトランプ支持に急変。
対立を好む視聴者を喜ばすためなら、
デマでも中傷でも平気にするロジャーの意向が働いていることは言うまでもない。
メーガンは、不本意である。で、その意志を番組で表わす。結果、メインから外される。
原因は、そればかりではないが。

同じような状況で、朝から昼番組に降格された先輩キャスターのグレッチェン・カールソン。
2016 年7 月、ロジャーをセクハラで提訴した。訴えることに際して、弁護士に相談するも
「相手はもてる権力をふるって潰しにかかるだろうし、勝てるとは考えられない」と
忠告されていたのだ。

FOX ニュース社内に限らず、いま現実、どこのメディアでも起きていると確信し得る出来事。
多様なハラスメント、対して長い物には巻かれろと決め込んでいる輩の存在を
暗示させる内容に、監督は「ただ真実を伝えたかった」と語っている。
スキャンダルという意味の枠を越えた、メッセージ性の高い内容に製作者の勇気を実感する。

いつの時代も、どの世界でも、権力者は醜い側面を隠し持つ実態を再認識させられた。

2020.1.10 試写/ G

2020 年2 月21 日(金)全国ロードショー
名古屋/ミッドランドスクエアシネマ、ほか

9 人の翻訳家 因われたベストセラー/ THE TRANSLATORS

  • 2019.12.17 Tuesday
  • 11:11

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9 人の翻訳家 因われたベストセラー/ THE TRANSLATORS

 



♯187


本が燃えるシーンから始まる。何か意味があるのか?

富と名声に取り付かれた出版社社長エリックは、
全世界待望のミステリー小説『デダリュス』の各国同時出版でさらなる富を得ようと目論む。
そのために、フランスの人里離れた村の豪邸に9 人の翻訳家を集め、彼らを完全に隔離。
通信機器を没収し、外部との接触を断つ。
彼らは、翻訳が済むまで出入りは許されない。
拳銃を構えた監視員が常時見張るなかで、毎日20 ページずつの作業を強いられる。

原稿が途中で漏れてしまっては、企みは水泡に帰してしまう。
それでも、冒頭の10 ページが流出。
「500 万ユーロを24 時間内に払え、さもないと次の100 ページを公開する」という脅迫が
エリックを憤慨させる。

男性5 人、女性4 人、誰もが一癖も二癖もありそうで、犯人と思えなくもないが、
いつ?、どんな方法で?、まったく想像もつかない。
他に、エリック自身、彼の助手、監視員たちがいるが、彼らを“シロ” と決めつけるのは早い。
もう一人、作者自身も疑いたくなる。となれば、登場人物全員となるから困ったものだ。
深まる疑心暗鬼、

エリックは翻訳作業を中止する。次の100 ページの原稿を渡さなければ、流出を止められるはずだ。
怒りに任せて犯人の特定に掛かる。身の危機にさらされる9 人。内輪もめが始まる。

人は、危機に追い込まれると本音、本質を表わすものなのか、9 人の人間性が露になるシーンは興味深い。
単なる犯人探しのストーリーでないことの奥深さを感じる。

さておき、流出できないはずの100 ページが世界中にさらされたというメールがエリックに。

手の込んだ構成で、ストーリーに飲み込まれてしまう。もう収拾がつかない。
そして、やはり隠されていたどんでん返し。ミステリーマニアでも解けなかったであろう、超一級ものだ。

本が燃えるシーンで締めくくられる。そういうことだったのか……ふう〜っ…
しばらく動けなくなる。

2019.12.13 試写/ G

2020 年1 月24 日(金)全国ロードショー
名古屋/ミッドランドスクエアシネマ、ほか

37 Seconds

  • 2019.12.13 Friday
  • 14:13

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37 Seconds

 



♯186


タイトル「37 秒」が、何を意味するのかわからない。
大きな事件が起きるまでの切羽詰まった37 秒なのか、ストーリーが進んでも、その気配はない。

主役は、車椅子に頼らざるを得ない23 歳のユマ。シングルマザーの恭子が健気に彼女を支える。
娘当人に言わせば、過保護ということのようだ。
そういうことから彼女は、漫画家になることで自立したいと願い踏み出す。が、どうにも世間の壁は厚い。
しかし、本作は、ユマに対する無理解や偏見を強調したりはしない。
その逆で、バリアフリー感覚で違和感もなく接し、彼女もへりくだったりはしない。
カメラの位置も車椅子に座った高さで、ユマの目線を多用するなど、あらゆるシーンで
制作者の配慮と丁寧さがきちんと伝わってくる。

ユマの役は、役者の起用が考えられたそうだが監督の「ユマは、きっとどこかにいる」という思いから
オーディションを行い、生まれたときから脳性麻痺の佳山明(日本福祉大学卒)さんが見出された。
彼女の身体の取り回しや発声は、ほぼ演技ではない。それらを制作側は生かしきった。
正直、観ていて切なく戸惑いすら感じたが、ストーリーが進むにつれ当初の感じは失せていた。

漫画家になるには、空想ではダメだ、実際に経験しなければリアリティーに欠けると
編集者に言われ、実践するもののユマ自身も周囲ももどかしい。
毋の心配も重なり、ユマは追いつめられていく。とうとう彼女は、家出を決心。
無謀に思えたが、実行から新たな展開も開ける。

本作は、2019 年3 月、ベルリン映画祭史上初の2 冠を受賞し、
4 月にはニューヨークで北米プレミアされるなど、その後も各国で高く評価されている。

最後には胸を打つ台詞(メッセージ)が用意されていた。
ユマの表情にうるおいがうまれ、37 秒の意味が明かされる。
で、人ひとりの人生を左右してしまう1 秒の重要性を知ることになる。

2019.12.11 試写/ S

2020 年2 月7 日(金)新宿ピカデリー、ほか全国ロードショー
名古屋/ミッドランドスクエアシネマ

嘘八百 京町ロワイヤル

  • 2019.12.09 Monday
  • 10:17

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嘘八百 京町ロワイヤル

 



♯185


どこまでが嘘で、何が本当なのか…。
騙されて気分がいいわけはないが、他人事なら心底笑えてしまう。
この、人の心の歪(ゆが)みを明るく笑いものにした代物が本作だ。
主役は、造形の歪みが価値のひとつでもあり幻とされる茶器、古田織部の「はたかけ」と決めつけたい。

誠実ゆえに儲からない美術商、目利きの小池則夫。
手筋はいいが職人気質ゆえに仕事がない陶芸家、野田佐輔。
ふたりには隠しておきたい過去がある。が、それを暴こうと付け狙うライバル美術商がいて、
物語は「はたかけ」に振り回されながら嘘の深みにはまっていく。

ある日、和服姿がよく似合う清楚な女性が、則夫の店を訪れ
「父の形見の茶器を認知症の毋が騙し取られてしまい、それを取り戻して欲しいのですが」と
相談してきたのだ。則夫の誠実さの針が直感的に揺れる。
則夫は、相棒の佐輔のことを念頭に、ふたつ返事で引き受けた。
ここから本作のタイトルが本領を発揮する。

あの手、この手では足りず、その手があったか、則夫様。テレビの生番組まで利用して
ライバル美術商、金に目がない鑑定士、政治家までももつれ込んで
あろうことか、幻であるはずの「はたかけ」が次々に登場。
そのなかのひとつは本物のはずだが。どれも出来がいい、正直見分けがつかない。
二転三転、反転逆転、騙すか、騙されるかのどんでん返し。

実は、嘘に振り回されるのは観客であり、最後の最後まで真実がつかめないように仕組まれている。
ゆえに、騙されることないように、常に疑って観なければならない。

よく仕上げられた作品だが、果して本作の出来具合、鑑定やいかに?

2019.12.3 試写/ G

2020 年1 月31 日(金)全国ロードショー
名古屋/ミッドランドスクエアシネマ、ほか

風の電話

  • 2019.11.26 Tuesday
  • 12:30

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風の電話

 



♯184


「ただいま」と帰れる家があるか。
「お帰り」と応えてくれる人がいるか。
そのいずれをも失ってしまった少女ハルは、どう生きていけばいいのか。

2011 年、ハルは、岩手の大槌町に暮らし、東日本大震災で両親と弟を津波に奪われた。
いまは、広島に住む伯母と二人の暮らしに馴れつつあるが
壊されたこころは置き去りのままで笑顔を忘れ、言葉数も減ってしまった。
8 年を費やしても、あの時の悔しさが消えることはない。なのに、また彼女に悲劇が。
優しく寄り添ってくれていた伯母が倒れてしまったのである。
またもひとりぼっちになった彼女は、どうすればいいのだろう。
訳のわからぬままにさ迷い、家族を思い泣き叫び、耐えきれず倒れ込んだそこは
彼女の胸の内を象徴するような荒れ果てた地。
偶然通りかかった男性に助けられたハルは、我をとり戻し大槌町へ向かうことを決意する。

故郷を目指す道程で、さまざまな境遇の人たちと出合い、“生きること” を励まされるが
それはハルだけではなく、観客へのメッセージでもあることは明らかだ。
同時に、被災し、ましてや身寄りまで奪われた人でなければわからない悔しさや
避けては通れない社会問題までも投げかけてくる。
それは、原爆のおぞましさであり、難民や福島原発における政治のいい加減さなど
世の中の理不尽さや矛盾がじんわりと染み入ってくる。
ドキュメンタリーのような演出と長回しが大いなる効果をもたらしているのだろう。

そして、「風の電話」までたどり着いたハルは、何を話すのか。
状況は止まったかのように静まる。ここは10 分もの長回しだ。
故に、彼女が口にする言葉を想像してしまう。思いにつまって、何も話せないかもしれない。
自分だったら、誰にどういうことを話しかけたいか、ハルの気持と重ね合わせてしまう。

もしもし……

2019.11.22 試写/ S

2020 年1 月24 日(金)全国ロードショー
名古屋/ミッドランドスクエアシネマ、ほか

パラサイト 半地下の家族/韓国:GISAENGCHUNG

  • 2019.11.17 Sunday
  • 15:07

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パラサイト 半地下の家族/韓国:GISAENGCHUNG

 



♯183


本作ではパラサイトを“就職先” と訳すが、
本来の寄生するという意味を無視しているわけではないようだ。
物語は、初め、ちょろちょろ、中、ぱっぱ。
かと思っていると、とうとう吹きこぼれてしまう油断のならない展開である。

日常の目の位置が、地表に当たる半地下暮らしの一家。
家長は、仕事なし、計画性なし、甲斐性なし、それでも楽天的。
妻は、元ハンマー投げのメダリスト。それに、、大学入試に失敗し続ける長男、
美大に行きたくも金がなく予備校に通えない長女の4 人だ。
ピザの箱を組み立てる内職で生計を立てている。

ある時、長男の友人が留学することになり、代わって家庭教師をしてくれないかと頼んできた。
教え子は、高台の超豪邸に暮らす一家の長女、女子高生だ。
君は、何回も入試を受けているから、その経験を生かしてくれといううがった理屈で、
こうした「なるほど」と思わせる会話が、後々もよく出てくるのも本作の味わいを成す。

偽造した学生証を疑いもなく受け入れて娘の家庭教師を依頼してくれた母親に
長男は、妹のパラサイトとして、女子高生の弟の家庭教師をさりげなく斡旋。で、うまくいく。
ここまでが、初め、ちょろちょろの段階だが……

半地下住宅と高台に佇む豪邸、低所得者層と富裕層と、
不平等と二極化といったテーマを根底におき
決して交わることのない両者が接することで生まれるハレーションをユーモラスに描く。
そこに北朝鮮とのあり様をサスペンスの素材として溶け込ます巧みな展開は、中、ぱっぱへ。
さらにさらに、想像を絶する緊迫感へと引きずり込まれたしまう。

ジェットコースターに乗せられたような、132 分のエンターテインメント。
カンヌの第72 回国際映画祭は、韓国映画として初のパルムドールを授与した。
「なるほど」。

2019.11.14 試写/ S

2020 年1 月10 日(木)TOHO シネマズ日比谷、ほか全国ロードショー
名古屋/ミッドランドスクエアシネマ

家族を想うとき/ Sorry We Missed You

  • 2019.11.04 Monday
  • 17:43

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家族を想うとき/ Sorry We Missed You

 



♯182


ホームドラマではあるが、笑顔で食卓を囲む有り体のドラマではない。
現実、この社会がかかえる問題をストレートに捉え提起する、めいっぱい社会派の作品である。

銀行の取付け騒ぎで住宅ローンが流れ、住まいも仕事も失い、残ったのは暮らしを苦しめる
借金だけとなった家族4 人。
それでも前向きに生きようと努めるが、理不尽な社会の仕組みが足を引っ張る。

リッキーは、独立しフランチャイズの宅配業を始めることを決意。開業に先立ちクルマを購入するにも、
介護福祉士として働く妻の愛車を売り、さらに借金を重ねざるを得ない。
「1 日14 時間/週6 日、2 年間働き続ければ、マイホームが実現し、かつての暮らしをとり戻せる」と妻を説得。
新しいクルマが手に入った。妻は、バスでの移動で苦労が増えた。子どもとの触れあいの時間が減った。
親子のつながりは、留守電だけ。それもあってか長男(16 歳)は、けんか、万引きなどのトラブルを起こす。
学校から呼び出されるも両親は忙しくまともに対応できない。14 日間の停学に追い込まれてしまう。
長女(12 歳)も、昔がよかったと両親に訴える。

観ていて、辛い、重い、救いはないのかと社会の歪みを怨みたくなる。
どうして、こんな作品を創ったのだろう。
監督のケン・ローチは制作意図を次のように語る。
--------- 新自由経済が持ち込まれてから、労働者を守る仕組みが崩壊した。
“個人事業主” “フランチャイズ” という誘い文句で、
労働者は「働いただけ儲けは全て自分のものになる」という幻想を植えつけられる。
その挙句働くことをやめられなくなり、家庭や健康といった個人的な基礎が侵されていく。
仕事は家庭を守るためのものなのに、
現代では家族の時間を奪っているなんてバカげている。--------(パンフレットから引用)

そして、リッキーが怪我をして病院で診察を待つ時間での出来事。
付き添う妻がとうとうキレる特長的なシーンに胸を打たれる。
どんない苦しくても決して誇りを失わない二人の労働者の言葉。
こここそ監督が主張したかったことだろう。

終わり方も凄い。
「後は、観ているあなたの問題でもあるはずだからしっかり考えなさい」と問題を渡される。
働く意味、社会の仕組み、もちろん政治のあり様も関う、意義深い作品に出合った。

2019.10.30 試写/ S

2019 年12 月13 日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、ほか全国順次公開
名古屋/伏見ミリオン座

ファイティング・ファミリー/ Fighting with My Family

  • 2019.10.20 Sunday
  • 10:06

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ファイティング・ファミリー/ Fighting with My Family

 



♯181


ここに、本作のキャッチフレーズを決める前の内部資料がある。提案されたのは、3 案。
1- 最強(凶)家族 2.- リング上のシンデレラ 3- 家族ぐるみで命がけ
どれも捨て難い。

イギリス北部の街でレスリング・ジムを営む一家。両親は、元レスラー。
子どもたち兄妹は、ジムを支える現役。決して裕福ではないが、日々の暮らしと明るく闘う。
兄妹は、レスリング一筋。憧れのWWE(アメリカのプロレス団体)と契約して一流になりたい。
そうした折り、二人はライバルたちと共にWWE との契約が叶う特訓を受けた。
選ばれたのは、妹のサラヤひとりだけ。
あれだけ自信があったのに、兄の夢は破れた。妹への嫉妬にも似た複雑な思いだけが残る。

サラヤは、家族に見送られアメリカに渡る。リング名ペイジでの挑戦が始まる。
想像を絶するトレーニングの厳しさ、よそ者扱いされて同僚と馴染めない。
重度のホームシックも彼女を苦しめる。

そのトレーニングは、さすがに凄まじい。エンターテイメントといえども、否、だからこそ
真剣を装った闘いをしなければ観客を沸かすことはできない。
派手な音を立ててリングに倒れ込む術、体当たりを痛々しく見せたり、
相手を威嚇する演技や言葉までも身につけなければならない。
当然、基礎体力を養うことも並大抵ではない。これらすべてを演じる役者も大変、辛そうだ。

クリスマスに帰省したペイジ。「もう、アメリカには帰らない」と秘めた思いを両親に言えない。
だが、兄は察した。リングに呼び出し妹の弱気を徹底的に打ちのめす。

選ばれなかった兄の悔しさや両親の励ましを背に、再びアメリカに向かうペイジ。

顔つきも体も確かに変わってきた。いま、彼女を待つのは、夢に近づける華やかなリング。
……だが、またしても弱気のサラヤがペイジをこわばらせてしまう。部屋から出られない。
観客のいら立ちが絶頂に達しそうだ。……もうタイムリミット!
その時、兄からの電話。

さて、採用されたキャッチフレーズは、「最強家族」。ストレートで伝わりやすい。
「リング上のシンデレラ」も悪くはないが、ちょっとネタバレ。
サブフレーズは、原案どおりの「究極のエンターテイメント“プロレス” に生涯をかけた
強い絆で結ばれた家族の真実の物語」が添えられている。

2019.10.17 試写/ S

2019 年11 月29 日(金)全国公開 名古屋/伏見ミリオン座

いのちスケッチ

  • 2019.10.12 Saturday
  • 17:42

JUGEMテーマ:試写会

 

いのちスケッチ

 



♯180


ほっ!
観終えてつくづく思った。製作スタッフみんなが心根のやさしい人たちだろうな。
そうでないと、こんなにもおだやかで素直な表現はできない。

物語は、「延命動物園」と名付けられた小さな動物園。経営の危機に追い込まれているものの
動物の健康と幸せを第一に考える、世界でも珍しい“動物福祉” の方針を貫く。
ここに、東京に出て漫画家を目指すも挫折して親元に帰って来た田中亮太がアルバイトとして働くことになる。
父親に受け入れてもらえず、やむなく旧友の部屋に居候。
アルバイトもとりあえずの軽い気持。生きる目処を失い、逃げ腰の日々であったが
動物たちを見守る飼育員の懸命な姿に感化されていく。
変わっていく亮太の様子や取り巻く一人ひとりの言動にてらいがなく、嫌味もなく清々しい。

最近荒んだ出来事が多い。いじめを指導する立場の教諭が後輩をいじめる事件もそうだが
何かを見失ってしまった人間が増えているのではないだろうか。
生きることの尊さ、重さしかり
何気なさからやさしさを感じとるデリカシー、それに気づくこころのゆとりまでも。

監督は、本作を製作するに際して、舞台となった大牟田市に8 か月も前から住み込み
自転車で走り回り、人や街に溶け込むことから一歩を進めたという。
そして実感した人情味、文化の厚み、自然が描き出す色合い。
すべてが物語のやさしさを支えている。

こうした環境で亮太は、動物たちのいのちに寄り添いつつ、自らの“生きる” を問う。

ふと思った。かつて小学校で映画を観せてくれる授業があったことを。
本作こそ、そうした対象になる作品であると確信できる。
ぜひとも実践して欲しい。児童たちに観せてあげたい。
下手な教育指導書など不要だ。後輩をいじめる教諭こそ観るべきだ。

あざとさの微塵も感じさせない、押しつけでもない“やさしさ” に共感できる自分がいた。
ほっ!

2019.10.8 試写/ C

2019 年11 月15 日(金)全国公開
名古屋/名演小劇場、ほか

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