家(うち)へ帰ろう/THE LAST SUIT
- 2018.11.29 Thursday
- 16:36
JUGEMテーマ:試写会
家(うち)へ帰ろう/THE LAST SUIT
♯146
いま、アブラハムは家族に囲まれた写真を撮ろうとカメラの前に座っている。
笑顔ではない。
88歳、アルゼンチンで仕立て屋として生きてきた彼は、いよいよ自宅兼仕事場を引き払い
翌日、老人施設に入らなければならない。娘たちがそう決めた。
孫たちも帰り、ひとりになった彼は、ふるさとポーランドへ向かうことを決意し
翌朝、家を抜け出し飛行場へ向かう。70年前、幼なじみと交わした約束を果たすために。
第二次世界大戦中のポーランド、
ナチスドイツによるホロコースト。
ユダヤ人アブラハムは、命からがら逃れることができた。
ぼろぼろになった彼を救ってくれたのは、幼なじみのピオトレック。命の恩人である。
約束は、ピオトレックに自分が仕立てた“最後のスーツ”を渡すということ。
しかし、70年前に別れて以来、一度も会っていない。ましてや、ふるさとに居るのか?
アブラハムは、マドリードからパリへ。
パリの駅での案内係とのやり取りは、本作を象徴するシーンではないか。
“ドイツを経由せずにポーランドへ行くルートを教えてくれ”と、しゃべらずメモで問う。
案内係りは通じないフリをする。
そのやり取りを見ていたひとりの女性が仲介してくれたが、彼女はドイツ人。
アブラハムは、その親切さえも気に入らない。
絶対にドイツの地に踏み入れない方法を彼女は提案。彼は、已むなく受け入れて列車に乗り込むが。
アブラハムは、ドイツ人が伯父たちを目の前で撃ち殺したことを「この目で見ていた」と
70年以上前の出来事に憤りを忘れることはない。
そして、あろうことかポーランドへの車中で目撃したことに身が打ち震え、倒れてしまう。
戦争の悲惨さを訴求する作品は多々ある。
本作のような表現は、初めて観た。
アブラハムの頑固さと周囲の一人ひとりの優しさの対比も衒いがなく印象的で意味深い。
そうそう、邦題を「家に帰ろう」とした訳が、最後の最後に理解できる展開は感動的。
2018.11.27試写/C
2018年12月 シネスイッチ銀座、ほか全国順次公開
名古屋12月29日(土)/伏見ミリオン座